ーー 嫁に来ないか ーー


ピンポロパンポーン 「アテンションプリ〜ズ、本日は当飛行船に・・・」 客室乗務員のアナウンスが始まった。 前に銀さんと一緒に宇宙の旅に乗ったのと同じくらいの飛行船。 新八、神楽、近藤と定春は無事に搭乗を済ませ席についた所だった。 考えもなしにここまで来てしまった。 新八はこの2日間を振り返る。 突然の銀さんと姉上の結婚報告。 姉上には幸せになってもらいたい。それは小さい時からの願いだった。 だけど びっくりした・・・ だけど もう泣きたくはないよ。 僕は男だから・・・ 寂しいなんて。 「もうすぐアルな新八」 神楽がニコニコと話しかけた。 「そうだね神楽ちゃん、ちゃんとシートベルトした?」 「こんなの無くても平気ネ」 「駄目だよちゃんとしなきゃ」 新八はそのまま神楽のシートベルトに手をかけた。 「そーだぞ! チャイナさん!出来る物ならしとけ。俺なんかベルトしまらねぇんだぞ!」 「近藤さん。それちゃんと調節器具ついてますから・・・」 「定春君なんか座席すらねぇんだぞ!」 近藤の隣の通路にて定春はおとなしくしゃがんでいる。 「定春はおすわり出来るから平気ネ!」 「そうだな!」 わっはっはーな二人。 「それより犬って連れて来て良かったんでしたっけ?」 前に来た時は怒られてた様な気が・・・ ピンポロパンポーン 「皆様、当飛行船はまもなく離陸準備に入ります。お手持ちのお荷物は・・・」 アナウンスが流れる。 「あっ・・・」 「もうすぐアルな!」 「新八、パピーに会えたら3人で一緒に暮らすアル。新八もエイリアンハンターになるネ!」 「えっ?」 振り向いた所に神楽はニコニコと笑って言った。 「・・・・ええっ!!そんな事考えてたの神楽ちゃん!?」 「そんな事って、じゃあ新八は何考えてたアルか?」 何って、ちょっとした傷心旅行って・・・ 新八は神楽を挟んだ隣の近藤を見た。 近藤はただ黙ってこちらを見ている。 「新八、大丈夫ネ。パピー強いからちゃんと新八の事守ってくれるネ」 「神楽ちゃん、あのねっ;」 「むぅ」 新八の言葉をさえぎる様に神楽はむくれ面を見せた。 「だって、もう銀ちゃん帰って来ないなら・・もう地球にいてもつまらないネ・・・」 「・・・;」 「新八だってもう帰らないって言ったネ」 「・・・・」 神楽はそのまま新八の手を取った。 「大丈夫アル。新八は私が守るから」 「私と新八はずぅーっと一緒ネ」 「神楽ちゃん・・・」 その時 ドンドンバーン! 後ろからドアを無理矢理叩き開けた音が聞こえた。 わらわらと黒スーツの男達が入って来た。 途端に船内に悲鳴が沸く。 乗客が騒ぎだした。 「すまんのう。えらいおおきに」 腰の低い台詞が奥から聞こえてくる。 黒スーツの男達の中から一人の天人が現れた。 「あっ!」 「あいつはっ!」 「ん?知り合いアルか?」 「皆はん、世話になるさかい。ちょっとこの船譲ってもらえまへんか?」 キャーキャーと他のお客は皆一斉に逃げようと立ち上がった。 「せや、はよ出ってってくれるとええ。こっちも気が楽や」 テクテクとその天人は前方へと、3人の位置まで近づいてきた。 「まてぇい!!」 「近藤さんっ!」 「おおっ!ゴリラっ!」 テクテクとこちらに歩いてくる天人に近藤が立ち塞がった。 「んあ?・・・にっ兄さんまさかその格好・・・」 「先日、貴殿ととてもソックリな指名手配書が俺の所に届いた」 「そっそうかい。まあ天人なんてみんな似た様な顔してるからのう〜」 「・・・脱獄容疑、並びに飛行船ジャックの現行犯で逮捕だ!」 近藤は威勢強くも言い放った。 「くそうっ真撰組はまいたはずやったのに・・・しゃぁない!」 その台詞が合図かの様に ズドーン・・・と銃声が鳴った。 黒スーツが一人天井を打ち抜いたのだ。 甲高い悲鳴が飛ぶ。そして・・船内が静まり返った。 「予定変更や。乗客は全員人質にとらせてもらうわ」 ズドーーン あまりの音がターミナル内に鳴り響く。 そこで犯人を捕らえる為にいた真撰組隊士等の耳にも届いた。 「なっなんだ?」 「土方さん、こらぁもしかして銃声なんじゃぁ・・・」 犯人を捕まえるべくはっていた真撰組。 銀時はその後も彼等と共に行動していた。 「・・・・」 被り物を被った銀時の耳にも今の銃声は届いた。 「副長ー!!」 バタバタと山崎が駆けて来た。 銀時を含む隊士が彼に注目し集まった。 「おう山崎、何だ?何があった?」 「15番船、アルデラーン星行きの船にて例の犯人がジャックしようと発砲しています! すぐ、お願いしますっ!」 「何だと・・こんだけ武装してるってぇのにまあ堂々と・・」 「土方さんなめられてるんじゃねぇですか?」 「それがっ局長が中で犯人とやりあってるらしいんです!子供二人を連れてるって!」 「何!?近藤さんがか?」 バッ!! 「あっポーピ君・・・」 「おいっ単独行動はっ・・・っ早っなんだあいつ!?」 ポーピ君の後ろ姿は通路の奥に点となってすぐ消えた。 くそっ 何やってんだあいつらっ! 何やってんだ俺はっ! あの時なんで手を離したっ!! 「ほう〜志村さん所の子じゃないかい」 借金取りの天人は、見覚えのある顔の新八に気づいてしまった。 乗客は客室内の隅に固められ黒スーツ達に銃を突き付けられている。 近藤は乗客を庇う様に一歩前に立っていた。 その姿を座席の間から隠れて見ていた新八と神楽が借金取り天人の目に止まったのだ。 そのまま近づいてくる。 「あっあんた、警察に捕まったはずじゃあ・・・ 脱獄って・・」 「せや、お宅の姉ちゃんには、またヒドイ目にあわされたわ。 お陰で暫く地球を離れなならん事になってんねん。良い稼ぎ所やったのにのう〜」 そして新八の目の前で足を止めた。 「良く見ると大きいなったのう〜 お前等昔はこーんなチビッコだったのにのう」 「・・・・;」 「ふむ、背丈もええし、姉ちゃんに似た顔もわし好みや」 「・・・・;;?」 そのままマジマジと舐める様に新八を見る。 「ホンマは姉ちゃんに来てもらいたかったが、しぁあない。お前さんわしの所で 一稼ぎしてもらいましょうか」 「はあっ!?」 すぐにも黒スーツの男が二人。新八を挟み両腕を掴んだ。 「えっなっ・・ちょっとあんたらっ!!」 新八は腕から逃れようともがいた。 「男っちゅーのがおしいわ〜。もって2・3年かもしれん。だがその年でその体つき、 もしかしよったら2・3年で化けるかもしれんわ。わしがじっくり叩き込んでやるさかい」 ニヤニヤと新八を見眺める。 「やだっ!はなせっ!!」 新八は力いっぱいにもがいた。 だが大の男二人の力にはどうにも振りほどけない。 「新八を放すネおっさん!!」 ガチャンッ!! 神楽が借金取り天人に傘の銃口を向ける。 「おもろい武器持っとるな、お嬢ちゃん。でもダメや。その銃でわしを打とうものなら、 こいつも、あの乗客もただでは済まさへんで」 「むうっ」 「神楽ちゃんっ、落ち着いて!ねっ!」 その時・・・ ウィ〜ンシュンと自動ドアの開く音がした。 「ボス、ありました。非常用の小型飛行船。すぐ出発出来ます!」 黒スーツの男が一人、船内を調べていたのか前方の自動ドアからやってきた。 「おお!そりゃあええ。騒ぎがデカクなる前に退散や。おら行くで!」 その言葉と共に新八が二人の男に引きづられる。 「わあっ はなせっ!はなっ・・はなしてっ」 「新八ー!」 自動ドアが閉まった。そのままロックがかけられる音も聞こえた。 「新八・・・;」 バタバタッ 「チャイナさん!すぐ追いかけようっ!乗客は全員無事だし、こんなドアぶち破ればいい」 後ろから駆け寄った近藤がドアに体当たりを始める。 何度も繰り返す。 だが宇宙を飛ぶ船だ、そんな簡単な作りではない。銃は弾を弾き返す可能性がある。 近藤は体当たりを繰り返した。 「新八・・・」 神楽はその場に立ちすくんでしまった。 近藤のドンドンと繰り返される音。 船内から逃げる乗客の音。 頭の中からガンガンと聞こえる。 秒単位で流れる時間を感じた。 油汗が全身をざわつかせる。 「新八・・・・・っ・・・」 どうしていいのかわからなくなった。 状況を理解するよりも先に新八を盾に取られてどうしていいのかわからなくなってしまった。 あんな奴等に自分が負けるわけがない。知ってる。 だけど・・・ どう戦っていいのかわからなかった。 知らない。 どう戦えばいいのか。知らない。 『守る』と言ったのに・・・ 『ずっと一緒ネ』 新八が・・・ 新八が、新八が、新八が、新八が・・・ 「う・・うぇっ・・・・」 「チャイナさんっ大丈夫だ;すぐ追いかければ、なっ。だからこのドアを一緒に;」 近藤は振り返り神楽のすぐ傍に腰をかがめた。 「うあっ・・えっっえっ・・」しゃくりはじめる。 新八が、新八が、新八が、新八がっ 「うあぁぁああ〜 新八ぃ〜うあぁぁ〜しんぱちぃ〜ひっ」 「・・・っチャイナさん・・」 「ああぁ〜 銀ちゃ〜ん、ぎんちゃっ・・銀ちゃぁ〜ぁぁ」 ダンッ ・・っと荒々しく人が中に入り込んできた。 近藤が振り向くと 「おおっポーピ殿!」 その勢いのまま向かって来る。 「乗客は全員無事だ。だが男の子が一人っ・・・」 その勢いのままドアを切り破った。 その勢いのまま中に消えた。 「・・・・っすげぇ」 一見で状況把握と行動選択をしたのか。 仕事に、いや戦い慣れている。   「うえっ・・・しんぱちぃ・・・」 近藤は横で泣き続ける神楽を引き寄せた。 「大丈夫だチャイナさん。ポーピ殿は1番強い男が選ばれるんだ。必ず新八君を助けてくれるさ」 「はなしてっ・・はなしてっ嫌だッ!!」 男二人に引きづられ新八はずるずると非常時用の小型飛行船の前まで連れてこられた。 取立て屋と黒スーツの男達を確認すると、小型飛行船のドアがゆっくりと開いていった。 ウィ〜〜ン 「・・・・」   「さっお前等早く乗り、さっさと行くで」 取立て屋の後に続き黒スーツ達が乗り込んでいく。 「・・・・っ」 すぐに両脇の男の力が強くなるのを感じた。 軽く体が浮く。 「嫌だ、嫌だ、嫌だっ!」 「神楽ちゃんっ!近藤さんっ!?」 情けない・・・ どうする事も出来ない。その力が無い。 助けて、助けて、助けて、 「神楽ちゃーんっ!!近藤さぁーん!!」 ドサッ 新八は船内の客用座席の間の通路に放りこまれた。 「うあっ・・・」 ドアが閉まると新八を引きづった男二人も座席に着いた。 エンジンが唸り出す。 「いやだぁぁあ だしてっ!だしてっ!!」 新八はドンドンと閉じられたドアを叩いた。 何度も叩いた。 顔はぐちゃぐちゃだった。 なんでこんなっ ちょっと放れたかっただけなのに・・・ 本当・・ちょっとだった。 ちょっと・・いたたまれなかった・・・ ちょっと・・苦しかった・・・ ちょっと・・寂しかった・・・ やめて、 いらない、いらない。 銀さんの傍にいられないならもういらない。 この心はいらない。 傍にいたかったです。 誰よりも傍にいたかったです。 また会いに行きます。 神楽ちゃんと定春と一緒に会いに行きます。 その時は、うっとおしがらずに相手をしてください。 ・・・・・・ 嫌だ、嫌だ、嫌だ、 誰よりも傍にいたかったのに 誰よりも遠くになるのはっ 「うああぁ〜 銀さぁん、ぎんさぁんっ・・銀さぁ・・・」 全員を乗せた小型飛行船は宙を浮いた。 「くそっ!」 銀時が下層階に辿り着いた時には大きくゲートが開かれていた。 急いで外を見上げれば、小型飛行船が昇っていっている。 くそ!どうするっ?! 「ワン!」 聞き慣れた声がした。 神楽が泣いていた。あれはもう悲鳴だ。 新八が連れてかれたのだろう・・・ 神楽、 そこで足を止めるな、 奪われたなら奪いかえせ 大事な物なら絶対に手を放すな 後で後悔しても遅い物が、事が、人がある 俺もそうだ・・・ 銀時は小型飛行船の屋根だけを綺麗にスパンと切った。 定春に跨ってターミナルのタワーの壁を登り、飛行船の目の前に現れたのだ。 取立て屋も黒スーツも皆目を丸くして、宙を舞うポーピ君の姿を見上げた。 そのまま飛行船の中に着地。 あん時の小さいおっさんが声を上げた。 「けっ警察、しかもポーピ君やないかいっ!最強を連れてきおった、やばいお前等逃げろ!」 一斉に黒スーツの男達が外へと飛び出していく。 「つっても、俺はお前等の事はどーでもいいんだけどな」 銀時は飛び降りる黒スーツ達を見追った。皆パラシュートが開いた。 あんだけ目立ちゃぁ、あのまぬけな真撰組にでも捕まえられるだろう。 「ポーピ君さん・・・」 声がした。 「新ぱっ・・・;」 銀時が目をやると、新八は床にくずれてこちらを見ていた。 顔が涙でいっぱいだった。 「・・・・・・」 「・・つっ連れてかれるかと・・思ったんです」 「・・・・」 銀時は足を前に進めた。 「もうダメだと・・・もう帰れないと・・・」 新八は床にくずれたまま動かない。 銀時はしゃがみ、新八の両脇に手を添えて新八を立ち上がらせた。 「・・・・」 「もう会えないかと・・思ったんです」 「・・・・」 「・・・っ・・・に・・・」 なにを泣く? お前等がなんでだ? 誰だ?何があった・・・ 俺がいない間に何があった・・・ ゆってみろ 俺がそいつぶっとばしてやっから。な。 ゴゴゴ・・・ 無人となった飛行船が傾き始めた。 「やばいな」 銀時は片腕で新八を抱え上げた。 新八も大人しくそのまま首に腕を回す。 「っと、定春ー!!」 「ワン!」 定春が勢い良く壁を登り向かってくる。 「・・・・っえっ・・えっ、定春って・・・」 新八はおそるおそるポーピ君の顔に手をかけた。 自然と涙が出てくる。 「っ・・ぎっんさん・・・」 真撰組屯所を後にし、銀時は泣き疲れた神楽をおぶって万事屋まで帰った。 後ろから新八は黙ってついてきた。 神楽が背中で顔を上げたのが分かった。 「起きたか?」 「銀ちゃん・・帰ってきてヨ。銀ちゃんも新八も姉御もみんな一緒がいいアル」 「ああ・・・そうだな・・・」 事情をまだ知らない神楽は唐突に話を始める。子供は頭にある事しか話さない。 「新八・・銀ちゃんがいないならもう帰らないって、私また一人ぼっちになってしまうアルヨ」 「お前はもう一人ぼっちじゃねーだろ」 「・・・だから私パピーの所に行こうとしたアル。新八も一緒ネ」 「・・・・」 「だけど新八・・パピーと暮らすのは嫌みたいネ、私困ったネ、だから銀ちゃん帰って来てヨ」 「ああ・・」 「私いなくなったら新八が一人ぼっちヨ」 「・・・ああ・・わかった・・・」 銀時は神楽を部屋に寝かせて襖をそっと閉めた。 リビングに入ると新八が荷物をまとめている。 新八の部屋から運んだ荷物だ。そのほとんどが紐とかれる事なく置かれていた。 「あっ・・・僕帰りますね。すみません後で取りにくるのでもう少し置かせてください」 銀時は横にしゃがんだ。 「いいだろ、こんなん後で」 「あっじゃっじゃあ・・僕帰りますね。また明日来ます」 新八が立ち上がろうとすると、 「っ銀さん・・・」 銀時は手を掴んで止めた。 「もう夜が明ける。いいだろ、今日はここで」 「でも・・・」 「お妙だって今夜は友達の所に行ってるだろうよ。あの家じゃあな」 「・・・・・・」 掴んだ手から新八が震えているのがわかった。 「・・ ・・・・どこにも行くな お前は・・・」 「っ・・・」 こんな荷物なら置いとけばいい このまま、この家に置いとけばいい 「・・ずっとここにいろ・・・」 「っ・・・は・・い・・・・」 行かないっ どこにも ずっとここにいる・・・ ずっとずっと 傍にいる・・・ 新八の瞳からまた涙がこぼれた。 ポロポロ ポロポロこぼれた。 銀時は手を放さなかった。 おわり
★ここまで読んでくださりもう本当に本気にありがとうございます!感激です!

この日銀さんは願い
この日新八は誓ったのです。

まっまさかこんなに期間をかけるとは思いませんでした。
書き出した時期は「じれったい関係ィ〜」というのに萌えていました。

最近は萌えの幅が広がったです。
やっぱチュウぐらいはしたい・・・;(*´ε`*)かも・・・


でも、この話の銀さんはこの日を境に新八をとっても大事にしてくれると思います!
チュウもアッチもソッチも、あると思います。

ここまで読んでくださりありがとうございました。
H19.4.27 蜜星ルネ







小説TOP TOP