ーー 嫁に来ないか ーー


「えっ何ですか?姉上もう一度言って下さい」 ここは新八の自宅兼恒道館道場。二人の姉弟の住まいとなっている居間に新八は お妙を目の前に今たずねた。 「姉御、私もよく聞こえなかったアル」 新八の隣には神楽が座している。 「だからね新ちゃん、神楽ちゃん。私と銀さんはね結婚することになったの」 「へっ・・・・」 「むをっ・・・・」 「・・・・・・まっ何だ。そうなちゃったみたいなんだわ。はは;・・・」 お妙の隣には銀時が座していた。 季節は秋に向かっている。とは言えまだまだ残暑は厳しい。 新八は毎朝日課の庭の水撒きをしていた。 こうも晴天が続くと庭の植木達もさすがにバテてしまうんじゃないかと新八は 思う。 「ふう・・・」 もうすぐ8時になっちゃう。 早く万事屋に向かわないと、あのぐうたらな二人は起こさないかぎり昼まで寝て いるだろう。急いで起こして、朝ごはんを食べさせて、 変に時間がずれると平気で昼飯はいらないとか言い出したりするんだから。 お昼だって毎日となると考えるの大変なのに、本当にいっつも勝手な事ばっかり 言って。 う〜ん・・・でも今日は暑いから「そうめん」にでもしようかなぁ〜 安いし・・・・。 「新ちゃん、今日も今から万事屋へ行くのでしょう?」 つらつらと考え事の新八にお妙が後ろから声をかけた。 「あっ姉上おはようございます。起きてて大丈夫ですか?昨日も仕事で遅かった んですよね」 「ふふ、おはよう。少しくらい平気よ。あのね、今日は新ちゃんと神楽ちゃんに 大事なお話があるの。 お昼御飯用意して待ってるから神楽ちゃん連れていらっしゃいね」 お妙はニコニコといつもの微笑みを新八にむけた。 この笑顔は機嫌のいい時だ。そして何もつかめない時の笑顔でもある。 「?はい。でも急に、銀さんが何ていうか・・・」 「銀さんなら大丈夫よ。一緒にいらっしゃいね」 あれはつまり、こーいう事だったのか。 僕は、姉上と銀さんを交互に見て愕然とした。 信じられない。 てか、ありえない・・・ 今までそんな素振り一度もなかった。 この二人がその・・そんな・・そんな事って、って想像しちゃったじゃないかぁぁ; 「姉御結婚する。私嬉しいヨ。でも相手銀ちゃんね。本当にいいアルか?おかし いアル」 「・・・・・・」 僕は横に座る神楽ちゃんを見た。小さい指は銀さんを指している。 「・・・・・・」 銀さんは何も言わない。いつもなら何かつっこんでくる所なのに。 「ふふ神楽ちゃん。男と女はね海よりも深く広くあるものなのよ。大人になれば 解かるわ」 「じゃあ姉御も銀ちゃんも愛しあってるアルね」 「そうですよ。ふふ」 そんなバカな・・・・。 僕は心の中で思わずつっこんだ。 「わ――い!じゃあ姉御はお嫁さんアルか!今日から姉御も一緒アル!!」 「神楽ちゃ・・」 神楽は喜んで飛び上がった。 そうか。神楽ちゃんにとっては喜ぶ事なんだ。 そのまま二人の間に入ってニコニコと喜ぶ神楽を新八はどこか遠いものを見るか のように眺めた。 僕、僕はあんまり喜べないや。 突然だったから・・・・ そりゃあ、二人がそんな風になったらいいなって思った事はあったけど。でも、 こんな急に。 そう、突然だったから・・・・ あんまり喜べない。 「なんで姉御が来ないアルか、なんで銀ちゃんがいっちゃうネっ」 神楽はふくれっ面に万事屋リビングでご飯をほおばった。 「しょうがないよ。二人が決めた事だし」 トンと新八はそのままお茶をいれてやる。 新八と神楽はその後新八の身の回りの荷物を抱えて万事屋に帰った。 あまりの突然の出来事に、今も頭がガンガンする。 新八の荷物は紐とかれる事なくリビングを占拠していた。 それでも夕食をと、先ほど箸を取ったところだ。 『銀さんが婿に入る』 そのままあの二人は軽く、さも簡単に告げた。 「新ちゃんと神楽ちゃんは万事屋で生活してね。二人仲良くするのよ」 神楽ちゃんの驚いた顔は今も目に浮かぶ。 だから何も話かけれず、今もご飯を食べる姿を見つめる事しか出来ない。 「もう、いいアル。いらないアル」 「・・・・もう?まだ5杯しか食べてないよ」 「いらないアルっ」 神楽は立ち上がると押入れに向かった。自称神楽の部屋だ。 「神楽ちゃん、お風呂はっ?」 「いらないアルっ!」 バンッ 少々乱暴にも閉じられた戸を新八は無言でたどった。 「・・・・・・5合も炊いちゃったのに・・・な・・・」 ふう。 解かるよ、神楽ちゃん。銀さんがいなくて寂しいんだよね。 神楽ちゃん、銀さんが大好きだから・・・ショックも大きいんだよね。 「・・・・・・」 「なあ新八、さっさとこれ片付けろや。ジャンプが置けんだろうっ」 「!」 『俺のデザートはガリガリ君でいいぞっ』 『風呂はまだかよ〜』 『俺は・・・』 「・・・!」 はは、ははは・・・ 頭がガンガンする。 新八は机につっぷした。 僕ももう寝よう。 お風呂は明日にしよう。 「新八。新八」 う・・・ん・・・・・・朝?・・・・ 「新八、起きるアル」 あれ・・・神楽ちゃん・・・・・ ハッ パチリ。 目を覚ますと神楽が布団のすぐ傍でちょこんと座っていた。 着替えもすんだその姿はいつも通りのお団子頭が結わえてある。 「あ、神楽ちゃんおはよう・・・早いねもう起きてるの」 「おはようじゃないアル。おそようアルっいつまで寝てるアルか!いつも早く起 きろって言うのは新八ネ」 「・・・?・・・何時?」 「10時」 「――――」 「えええぇぇぇっ―――!!」 新八は飛び起きた。いつもなら絶対に寝坊なんてしない。というより初めてだ。 「何でっ!やだっ!!どうしようっ!!洗濯物っじゃなかった、その前にご飯っ! じゃないっ銀さんッッ!!」 「!ムヲっ?」 「・・・あっ」 いるはずのない人の名前を呼んでしまった。 恥ずかしい。 新八は何よりもまず、お腹を空かせた定春に急いで朝ごはんを与えた。 神楽は新八を起したらそのまま一人で遊びに行ってしまった。 仕事のない日は、っていつもだけど;神楽はよく一人だったり、もしくは定春を 連れてフラフラっと遊びに行ってしまう。 定春は目の前でご飯を食べてるので今日は連れていってはもらえなかったみたいだ。 「ごめんね定春。お腹空いてたよね」 万事屋のマスコット的ペット定春は、数時間ぶりのドッグフードをもの凄い勢い でたいらげていた。 新八はそうして定春のおでこを撫でている。 今日は何をしよう・・・ 『部屋の掃除がしたい』 『冷蔵庫のチェックがしたい』 『家計簿つけたい』 『スーパーの特売に行きたい』 いっぱいあったのに、いっぱいしなきゃいけないのに 今は何もする気がおきない。その気力がない。 昨日の今日で、まだ疲れてるのかな。 台所に入ると神楽がたいらげたのであろう、炊飯器がカラのまま蓋を開けていた。 良かった食欲はもどったみたいだ。でも、このままじゃお昼にはお腹を空かせて 帰ってきてしまう。 神楽ちゃんのご飯だけでもちゃんとしないと、とりあえず着替えて買い物に行か なきゃ。 新八は早速買い物に出掛ける為、身支度を済ませ、敷きっぱなしだった布団を 押入れにしまおうと戸を開けた。 「あれっこの着物は」 すると、奥の方に白い布がギュウギュウに丸まって詰まっている。引っ張って みると見慣れた着物がずるずると出てきたのだ。 「銀さんのだ・・・」 きっと着替えもせず寝てしまい、そのまま気づかず布団と一緒に押し込んでしま ったのだろう。 「あ〜あ。クシャクシャ」 布団に押し込められたせいで、着物はシワシワに激しく折りジワが出来てちょっ とやそっとじゃ元には戻らない。 「これは〜洗濯して、アイロンがけしないと直らないよ」 もう・・・ パタパタと新八は洗濯機に向かった。が、パタリと足を止めた。 「なんで僕が洗濯してアイロンまでかけなきゃならないのさ。あの人が自分でや ればいいんだよ」 そう。てか、 「あっ 姉上にやってもらえばっ・・・いいんだよっ」 そう。新婚さんなんだから。 銀さんのだらしなさは姉上が注意すればいいだ。 そう。僕じゃない。 新八は銀時の着物を軽く畳んで買い物籠に入れた。 変な感じだ。自分の家だったはずなのに、帰るではなく訪ねに行くなんて。 新八は買い物よりも、まず先に着物を届ける事にした。 足が重い。 持ってるだけで落ち着かない着物。早く手放してしまいたい。 昨日の今日で行きづらいなぁ。 あの二人は昨夜はどうすごしたのか、どんな会話をするのか。 ・・・・・・; もしかして、お邪魔だったりして。 やっやっぱり、また今度にして・・・って門まできちゃった; 「おっ新八じゃねぇか」 後ろから聞き慣れた声が聞こえた。 「ぎっ銀さん! って何ですかその格好」 銀時は工事現場のおじさんの様な格好をしている。ご丁寧にヘルメットもかぶっ ていた。 「ああ?日曜大工?」 「銀さん今日は日曜じゃありません」 「で、ほれ」 「はい?」 銀時は新八の目の前でヒラヒラと掌を見せた。 「持ってきたんだろ。早いとこ出せやオラ。姉ちゃんに気づかれるだろう!」 「ああ、はい持って来ました。今朝見つけたのでそのまんまなんですけど」 ポスン 「・・・・。あの何?このボロ布」 「ちょっと、よく見てくださいよっ銀さんの着物でしょう。無いと困るかと思っ てわざわざ持って来てやったんですから!」 じと〜と視線を受けた。 「何です?」 「べ弁当は?銀さん昨夜から働きづめなのよ。新ちゃん弁当は?」 「・・・・・・はあ?」 パクパク、モグモグ、ゴックン 新八はバキュームカーかのようにちゃぶ台に並べられたご飯が吸い込まれていく のを眺めた。 目の前の男の箸が止まるのをじっと待った。 あれから、何故か家に上がりこんで食事の支度をしてしまった。何やってるんだ ろう僕は・・・ 姉上は部屋で眠っているらしい。 何やってるんだろう。 てか、何やってたんだろうこの人は・・・姉上は・・・ ・・・・・; 嫌だ。考えたくない。聞きたくもない。 帰ろう。早く帰って神楽ちゃんのご飯作らなきゃ。 スッ 「おっもう行くのか?」 立ち上がった新八に銀時が気づいた。 「ええ。神楽ちゃんもお腹空かせて帰って来ちゃう頃なので」 「そうか」 「・・・・はい」 「なあ、神楽は元気にしてるか?」 「はあ・・・?元気にって昨日まで一緒だったじゃないですか」 「ああ;まあ;そうなんだが・・はは」 「・・・・・・」 「・・・;なあよお」 「・・・時々は会ってあげてください。分かってます?神楽ちゃん銀さんの事が大好き なんですよ」 「ああ、まあ・・・な」 「・・・・・・」 新八はそのまま俯き加減に視線を彷徨わせた。 「ちょっ、ちょっおまっ何?この重たい空気っ銀さんなんか悪いみたいじゃない!」 「わっ・・・」 銀時が急に立ち上がった。そのまま新八に向かう。 「こっち向けや、仮にもお義兄さまなんだぞコノヤロー」 「わあっ」 ぐいっ! 無理矢理に顔を向かされた。頬にかかる手が熱い、僕よりずっと大きい。 視線が向かい合う。 「ぎ銀さんっ!?」 「;;ありっえッ何だっけ?」 ドッドッドッ自分胸の音が聞こえる。 嫌だ。考えたくない。聞きたくもない。 「ぎっ銀さん」 「あ?」 帰ろう。早く帰って神楽ちゃんのご飯作らなきゃ。 早く、早く、 「・・あっ・・姉上の事、すっ・・」 「あら〜新ちゃん来てたの?」 「おっ」 「姉上っ!」 僕は思わず銀さんから飛び離れた。 姉上はいつもどおりの笑顔で廊下をこっちにやってくる。 でもあんまり笑顔じゃなさそうだ。むしろ・・・ 「銀さんたら〜お腹が空いたなら私が作ってあげるのにぃ。新ちゃんに作らせる なんてイケナイ旦那様ですね〜ふふ」 お妙はニコニコと微笑みながら銀時に攻めよった。 「ああ〜;おっお前昨夜の事で疲れてるかな〜ってよ、そこへたまたま新ちゃん がだなぁ〜;」 「あっ姉上っ僕なら平気です。ご飯くらい」 「・・・新ちゃん。私達は今新婚なのですよ。ホヤホヤなのですよ。」 「あ・・・・」 「悪い事を言うけれど、しばらくは家には来ないでね。神楽ちゃんにも伝えてお いてちょうだいね」 「そっそうか、すみません姉上。と銀さんっ。お邪魔をしてしまって」 僕は思わず頭をさげた。 「ううん。我が儘言ってごめんなさい。でもお願いね」 「はい」 顔を上げると、後ろに立つ銀さんと目があった。銀さんは何も言わない。 僕は銀さんの言葉を待ったのかもしれない。 すぐにもかわされた視線が胸をかすめる。 「それとね新ちゃん。アレも連れて帰ってもらえるかしら」 「?」 お妙が指さす方向には、 「こっ近藤さんっっ!?」 ちゃぶ台を越えた部屋のはじっこに、真選組局長、その人が膝を抱え、白目をむ いて鎮座していた。 「ええっ!!ずっとそこにいたんですか!気付かなかった。・・・てか忘れてましたね この人の事・・・」 「昨日からずっとあそこでああしているのよ。気味が悪いわ」 「座敷ゴリラだな。害はねぇがいい事もねぇなこりゃあ」 あははと笑う二人。 「っ・・・ちょっと姉上も銀さんも、その言い方はないでしょう。可哀想じゃないですか」 「えっ?」 「はっ?」 僕はそのまま近藤さんに駆け寄り彼の前に膝をついた。 「大丈夫ですよ近藤さん。僕と一緒に帰りましょう。送りますから」 「おい新八」 銀さんの呼びかけが聞こえる。 「・・・・・・」 可哀想じゃないですか。 ずっと好きだった姉上が結婚しちゃうなんて、ショックですよね。 ずっと好きだった人が結婚しちゃうなんて、僕なら耐えられない・・・ どうにかなってしまう・・・ 僕には耐えられない。 つづく
(2)へ

★ここまで読んでくださりありがとうございますっ!
ちょっとシリアスチックなお話になります;
でも、次は近藤さんが出てくるのできっとアホっぽく・・・

とにかく『ヘタレ銀さん』×『いい子新八』に萌えています!
私の萌えポインツを少しづつでも発信していきたいです。

\(*T▽T*)/ H18.9.9 蜜星ルネ




今後、随時修正、加筆の可能性あり;

どうでもいいですが、私は神楽ちゃんがコミック4巻でくじ引きの時の台詞
「むをっ!!」がやたらツボです。(かわいい〜v)
なので隙あらば「むをっ」「ムヲっ」言わせようとしています。
「むをっ!!」




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