ーー 正直に言おうっ!! ーー


正直に言おうっ!! 俺は今ワクワクしているっ!(ドーン!) それは・・・ 歌舞伎町内を新八と神楽と俺、3人で歩いて帰る。 本日の仕事は終わった、行方不明のペット探し。 一週間いなくなっていると聞いた時は気合いも入ったが、 捜索開始してから3日目の本日、腹を空かせて公園の罠にハマっての確保! 金持ち雇い主は、約束どおり1週間の食費代に等しい料金を払ってくれた。 いや〜おいしい仕事だったな。 そして、ウキウキの帰りの道中に新八が思いがけない一言を言った。 「僕、今夜泊まっても良いですか?」 トントントントン 台所から料理の音が聞こえる。新八が夕飯を作っているのだ。 俺と神楽はリビングでただ待ってるだけ、 中央の社長机に座って一言。 「う〜・・・・」 喉から意味不明な声が出た。 それには、ソファアに寝そべり買ってやった雑誌をめくっていた神楽も顔を上げる。 「銀ちゃんさっきから何アルか?」 「ああ?」 「熊みたいにウロウロして、気が散って本が読めないアル」 「・・・・・・・・・・・」 「新八のご飯がそんなに楽しみアルか?プクク」 神楽のヤジには気づかぬふりをして、背中にある窓に目をやる。 ああ、そうだ。 正直に言おう! 俺は今夜が楽しみでしょうがない! 浮かれて舞い上がっちまいそうなんだよ!! ああっ!! いつからだったか・・・ 突然、押しかけてバイトに納まった新八は、うっとおしい奴から知らず知らずのうちに 便利な奴になって、今は万事屋に無くてはならない奴になった。 新八ごときに浮かれれるなんて、不本意だが今はしょうがあるまい。 3人揃って晩飯なんて一ヶ月ぶりなのだから、 そういう神楽だって、雑誌のページが殆ど変わってない。 久しぶりにまともな晩飯って事もあるかもしれないが・・・ そんな時、新八がひょっこりと顔を出した。 「二人共、もうすぐ出来ますから、神楽ちゃん、これでテーブル拭いといてね」 「わかったアル!」 新八が神楽に雑巾を手渡した。 その時、 ジリリリーン 手前の電話が鳴った。 「はい、万事屋ー」 俺は何の気無しに電話を取った。 「ああ、で、?ふん、ああ、ああ、わかった。行くよ!」 ・・・・・・・・・チン・・・ 「・・・・」 「銀さん?」 俺は新八を見上げると、 「仕事が入った」 「わあ!凄い!今月は家賃のツケまで払えちゃうんじゃないですか?」 「ああ、まあそうだな」 「神楽ちゃん!仕事だって!」 新八は嬉しそうに神楽を呼んだ 「凄い!途切れず、仕事が入るなんていつぶりですか!? 明日のご飯はちょっと贅沢しちゃおうかな〜」 俺はニコニコと明日の食卓を想像している新八を見た。 笑顔が眩しすぎる〜。 まあ、こんなに喜んでるなら頑張るしかあるまいっ! 銀さん頑張っっちゃうんだからっ!! 「じゃあ、行ってくっからよ・・・」 「えっ?」 俺はトボトボと和室に向かう。 大工道具箱を取り出した。 「銀さん、仕事って今からですか?」 「ああ、っしょっと・・・」 担いで立ち上がる。 「蛇口のパッキン外れて水が止まらんだとよ、この時間じゃ水道屋の営業時間過ぎてるからな」 「じゃあ、僕も行きます!」 言うと思った。 「いいよ、どうせ一人で十分の仕事だしな・・・」 「でも銀さん・・・」 玄関に向かえば新八も一緒に後をついて来た。見送りは嬉しい。 「だから、大丈夫だって、こんな時間にお前らガキ連れ回してる方が、客にもイメージ悪いだろ。」 振り向けば不安そうに俺を見上げる顔があった。 くそっ可愛いのなっ!おいっ!! 「そうですか・・・あの・・・銀さん・・・」 「あ?」 「あの・・・手が・・・」 「手?」 言うに促され手に視線を落とせば 「おっ!おわぁ!?」 俺の手が新八の手を握り込んでた。 パっっと放す。 いつから握ってた?! てか、ここまで引っ張って来たのかよっ! 「・・・・」 新八は握られた手を軽く擦ると、上目遣いで言った 「じゃっじゃあ、お願いします。あの、今夜は風呂上りのイチゴ牛乳も・・のっ飲んでいいです!」 「あっ、ああああっ当たり前だろぉぉおお!誰が働いた金だと思ってんだ!」 「はい。いってらっしゃいませ。銀さん」 「おっ、おう!!・・・」 ガラガラガラ・・・・・ 俺は原チャリ飛ばして街を抜けた。 心が逸る、手が勝手にアクセルを上げた。 おまけに冷や汗まで感じる。 理由は分かってる。 早いとこ済まして帰りたい!! 新八と神楽三人で晩飯を食べたい! 一ヶ月も待った団欒時間をっ!! それだけで頭いっぱいなんだ・・・ 「やっぱり万事屋さんに頼んで正解だったわい!」 依頼人の家は築50年はするかと思える、老朽化が進んだ小さい平屋。 迂闊に歩くと床が抜けるのではと、銀時は恐る恐る屋敷に入った。 台所に入って水道を開く、簡単な作業だった。 「そうかい、中の部品も変えといたから数年はもつはずだ」 「ありがとうよ。これで明日はじいさんと一緒に町内会に出られるよ」 「そりゃ良かった。じゃ、また何かあったら頼むわな」 銀時は道具箱の蓋をしめ、担ぎ上げた。 「ああ!そりゃもちろんじゃとも!」 喜ぶ婆さんに銀時も自然と口元がゆるむ。 さてと、と玄関に向かうところで 「万事屋さんちょいと待っとくれ、」 奥の部屋から爺さんに呼び止められた。 「何だよ?あっ、晩飯だったら家で作って待ってる奴がいるんでお気遣いなく、」 銀時は呼ばれた部屋へ足を向けた。そのまま部屋をくぐると、 「なんじゃ嫁さんが待ってるのか、なら悪いがこの床も直してもらえんか?」 「なら?・・・って何だよ?」 見ると人一人落ちたかのような大穴がリビングと思われる小さな部屋に堂々と空いていた。 「わしが一度直そうと必要な板はそろえておるんだが、何しろこの腰じゃあ」 「じいさん、今からじゃ万事屋さんに悪いじゃろ?」 「だがお前、また横になってテレビが見たいと言っておったじゃねーか」 「そうじゃの、今すぐ直ればこんなに良い事はないのう・・・」 「ちょ、ちょっと待てよ!今何時だと思ってんだっ!!」 「今すぐ直してくだされば年寄り夫婦、年金の底力魅せるんじゃが・・・のう?」 二人の老夫婦はうらめしそうに銀時を見上げた。 「うっ・・・わっわーったって!!」 「はあ・・・」 がらがら・・・と銀時が玄関を開けたのは夜中の11時をとうに過ぎた時だった。 神楽は確実に寝てるだろう。 新八だって寝る時間だ。 ぶっちゃけて・・・ 楽しみだった。 きっと今夜は賑やかになるだろうなってよ・・・ 神楽と飯の取り合いしたり、それを新八に怒られたり、 くだらない話に卑猥なネタだって・・・ 「はあ・・・」 リビングに辿り着いた。 やっぱり誰もいない。 部屋が家中が静まりかえってる。 ドスンと・・・床に下ろした道具箱がやたらと響く。 「はあぁ〜あ」 もう一度ため息をついて中央のソファに座り込んむと、どっと疲れが押し寄せてくる。 天井を見上げた。 何もない。 台所には俺の分の晩飯があるはずだ 風呂にだって入らんと・・・ 何かやらんと・・・ 早く・・・ 早く・・・ 「銀さん」 「!」 自分の名を呼ぶ声が床から聞こえた。 銀時はすぐにも顔を下ろす。 新八が襖の間から正座して顔を見せてた。 「新八っ!起きてたのか!?・・・っ!・・・」 思わずデカクなった声を噛んでもう一度ゆっくりと新八を見る。 すると新八は首を振り 「寝てました。でも銀さんが帰って来ると分かるんです。」 俺は立ち上がって襖に近づいた。 「部屋が、家が急にあったかくなるんです。」 「家?」 視線を合わせる為に一緒にしゃがむ。 「僕と神楽ちゃん二人っきりだと、何か空気違うって言うか・・・何か居心地悪いんですよね。」 「・・・・・」 「この家は銀さんの家だから、家もきっと銀さんが帰って来ると嬉しいんですよ!」 新八はヘラリと笑ってよこした。 「家が?」 「はい!あっ!銀さんご飯まだですよね。僕、準備しとくのでお風呂入って来てください」 新八は思いだしたかのように立ち上がろうと、 「っ!わあっ!!」 着ていた浴衣を踏んでつまづいた。 「おっ!」 ドサリと飛び込んでくる。 「おいおい、危ねぇだろ・・・」 「すみません、ははっ」 細い体・・・違う。小さいんだ。 「銀さん?」 ぎゅうぅっぅ! 思わず腕に力がこもる。 「なあ?お前は?」 「えっ・・・」 「・・・・・」 本当は知ってんだ。 一ヶ月ぶりのまともな晩飯も、団欒も、全部俺が引き伸ばしてただけなんだ・・・ お前はずっと俺の顔を窺って・・・ 全部お前任せにしてた。 「あの・・・」 「・・・・・・」 お前は逃げないから 「僕も・・・そうです・・・」 「っ・・・・」 大丈夫なんだ! 「あん・・新八。その・・俺な・・・・」 だから、今! 正直に言おう。
★ここまで読んでくださりありがとうございます!

小説ちょっと久しぶりすぎて、過去の作品とこんがらがるです。
少しでも楽しんでくださったら嬉しいです。




H23.6. 蜜星ルネ







小説TOP TOP