ーー Daddy's love ーー


「まだ帰ってこない・・・銀さん」 新八は取り分けておいといた銀時の昼食を片付けて、夕食の準備をする事にした。 どうしよう・・・・・・ いじわるしちゃった。 だって「お通ちゃん」だったし、もう二度と手に入らない物だからこそ諦めきれなくて・・・ レアCDだ。 どんなに探したって、何件CDショップへ行ったところで手に出来るわけがない。 知ってたのに。ワザと見送った。 どうしよう・・・・・・ 「銀さん、このまま帰ってこなかったりしたら・・・」 どうしよう・・・・・・ ブロロロロ・・・ 「すまねぇな兄ちゃん。あともう一件で終いだから。・・っゴッフゥッ・・ブフゥ」 「しゃべるなぁぁ!おっさんっっ!!心臓に悪りぃんだよっ!怖えぇぇんだよっ!!」 何の因果か、銀時は昼にテレビで見た「ゴールデン・ダディ」を後ろに乗せて 新聞配達のお手伝い。 「ああっもう!!今日は完全に厄日だっ!!」 「ほれ。これでも飲んで、まあ落ち着けや。おっさん」 なんとか時間どおり新聞配達の仕事を終え、二人は新聞屋まで戻ってきていた。 バイク横にガックリと座りこんでしまったおっさんに、銀時は近くの自販機から飲み物を 買って来た。 「ああ・・・すまねぇな兄ちゃん・・・っゴッフゥッ・・ブフゥ」 「なっなあ、おっさん・・・少し休んだらどうだ?働きづめなんだろ・・・」 そのまま銀時もバイク横に座りこむ。 「ダメだ。次は6時からコンビニのバイトが入ってんだ。休んでなんかいらんねぇよ」 「ああ、テレビ観たぜ。そのなんつーかさぁ。嫁さん多すぎっつーか、そのうち毒入り カレーとか食わされそーじゃね?みてぇ〜な〜」 「ん?カレー?なんで兄ちゃんがウチの定番メニュー知ってんだ?」 「って食ってんのかよっ!おいっ!!おっさん騙されてるってっ今に過労死するぞっ!!」 「いいんだよ。俺はもう母ちゃん一人殺してんだから・・・ゴッッフゥ・・・ブヘッ・・・」 「・・・・・・?」 「新八・・・」 「神楽ちゃん、お登勢さん・・・」 「新八、銀ちゃんなら大丈夫ネ。そのうちひょっこり帰ってくるアル」 「何も、外で待ってるこたぁないだろう?店ん中お入り」 「うん。でも・・・銀さんいつ帰ってくるか分からないし、帰って来た時には一番に 謝りたいから・・・」 「なんで新八が謝るネ?悪いのは全部銀ちゃんネ!・・・それとちょっとだけ私アル」 「ありがとう神楽ちゃん。でも僕、もうちょっとだけ待ってみるね」 しぶる神楽を部屋に戻し、新八は夜空を見上げた。 ごめんなさい銀さん。いじわるして・・・ 昼食も夕食も食べずに「お通ちゃんレアCD」探させて・・・ でも、本当にそうだったらちょっと嬉しいかな。 うん。 「ふふっ・・・うふ・・・」 CD屋を駆け回る銀時、店員に尋ねる銀時、あせり顔の銀時の姿を想像して新八の顔は ニヤニヤ・・・にやにや・・・ 「・・・なんだい、あの子?おいっどうかしちまったかい?」 店内からかかるお登勢の声は、もう新八には聞こえなかった。 鮮やかなネオン、ライトが煌々と輝く 日は沈んでも、人々は沈まぬ街中、とある巨大なビルに銀時は来ていた。 「すいまっせーん!お通ちゃんレアCDありますかぁぁああああ!!」 「えっちょっ、何っ?誰っ?君!?」 「ホレっ」ペロリ 「本日一日、テレビ局フリー通行手形。『ゴールデン・ダディ』からもらったから」 「確かにそれは、ウチのテレビ局の手形だが・・・」 銀時はなんだか無理矢理テレビ局に来ていた。 「すいまっせーん!お通ちゃんレアCDありますかぁぁああああ!!おらぁぁああああ!!」 その上なんだかワイルド。 「テレビ局なら、CDの1枚や、2枚や、100枚はあんだろぉぉおおお!!」 「新八ィいいいい!!待ってろぉぉぉおおおお!!」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 『俺の最初の母ちゃんな過労死してんだ。 気づかなかったんだ。あいつが何にも文句言わねぇから。家に金入れなくてもよぉ、 あれっ?ニートでも結構暮せるんじゃね?的に、俺思っちまって・・・・ あいつ俺と娘食わせる為によぉ、仕事掛け持ちしてたんだ』 『・・・・・・;;;;』 『兄ちゃんも嫁さんは大事にしろよ。着物の洗濯の香りから分かる。働き者のいい嫁さんじゃねぇか』 『はっ?えっ・・・っマジ?』(くんくん) おっさんはフラフラと立ち上がり歩き出した。次の仕事先へ。 『俺ぁもうゴメンだよ。今の嫁さん達は力いっぱい幸せに・・・ゴッッフゥ・・・ブヘッ・・・』 『おっさん・・・まさか死にてぇのか?・・・』 『まさか、俺ぁそんなカッコ良くねぇよ・・・ブッヘー・・・ゴッホ・・・あっまた血が・・・』 『おっさ・・・っ・・・ダディぃぃ!!!』 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 日本世帯が皆そろそろ寝ようかという頃。 人通りの無くなった道をバイクの走る音が新八の耳に届いた。 ブロロロロ〜 「!」 「銀さん、お帰りなさい」 「えっ新八?」 パタパタと駆け寄る。 暗い中、街灯の明かりに照らされた新八。 「よかった。帰って来た」 「・・・・・・」 新八は少し顔を見るとすぐに俯いてしまう。 「銀さん。あのっCD買えなかったですよね。僕・・・あのCDは・・・」 「ホレ」 「!」 新八の目の前にお通ちゃんの笑顔がある。 「あああっ!お通ちゃんっ、銀さんなんでっ、これレアCDだったでしょう?!」 「ああ、苦労したんだぜぇ 一日中駆けずりまわっちまった」 「・・・・・・」 「ん?」 視線を感じた。新八が見上げている。 「ん?何?銀さんに感激しちゃった?おいおい何だ、らしくねーな」 「・・・はい・・・嬉しいです・・・なんだかちょっと・・・・・・」 「・・・ありがとうございます・・・」 「・・・・・・っ」 スッ! 「っ・・・新八ィ!」 ぎゅううううう 「えっ?ちょっ?」 突然銀時は新八を抱きしめた。 「銀さん????」 「新八、俺が悪かった!みたいだ!」 「はい?」 「今日やっとわかったんだ。これからは大切にするよ」 ぎゅうぎゅうと力が強くなる。 「・・・銀さんやっとわかってくれたんですか?」 「ああ・・・」 新八はモゾモゾと銀時の腕の中から顔を上げた。 「あは、好きになってくれたんですか?!」 「あ、ああまあ・・・」 「僕も好きです。一番好き!」 「マジっ!? けどっ いっ一番はまずいんじゃねぇかっ?」 「よかったぁ!・・・じゃあ一緒に聴きましょうね。お通ちゃん」 「・・・っ はっ?」 「銀さんが嫌がるかと思ってずっとウォークマンだったんです。でも壊れちゃったし、 僕もデッキで聴きたかったんですよね」 「・・・・・・あ、ああ・・・ああ」 「う〜なんアルかぁ〜」 急にガタガタ、ガチャガチャとうるさくなったリビングに神楽が起きてきた。 「ああ、神楽ちゃん。銀さんが帰って来たよ。今お風呂入ってるからね!」 新八は嬉しそうに言った。アル。 「う〜・・あっ!銀ちゃんご飯食べるアルか!」 テーブルの上は食事の用意がされている。 「そうだよ。今日は何も食べてないからね」 「新八も食べるアルか!ずるいネ!私も食べるアル!」 「神楽ちゃんはさっき食べたでしょう?・・・・もう、はいはい、でも銀さんの おかずは食べちゃダメだからね」 新八はにこにこと台所へ向かった。アル。 「なんだ神楽。お前、ガキはガキらしく寝てろよな」 「銀ちゃん。やっと出たアルか?」 時はおよそ11時。 銀時は今やっと風呂から出たところだ。 「大人はな。っと、みんな風呂場で一日の反省をしてんだよ」 そのまま神楽の横に腰を降ろした。 「でも、銀ちゃん偉いネ。新八泣いて喜んでたアル」 「本当か?!」 「うそネ」 「・・・・・・」 「新八、ず〜っと銀ちゃんの事怒ってたネ」 「それはウソだな。あいつは怒ったりしねえよ」 「・・・・・!」 そう言って、銀ちゃんはにやにやとテレビを見た。アル。 気持ち悪いアル。 「はーい。ご飯にしましょうねー」 新八はひょっこりと顔を出した。 「「 はぁぁーい。 」」 おわり

★「えっ?何?くっつかないの?」 という感じだとは思いますが・・・
私は、『 好きあってるのに つきあってない 』が好きなんですっ!(めんどくさい萌心)

銀さんが、新八のありがたさを身にしみてわかるという話にしたかったのです。
でも、新八は今のままでも幸せらしい・・・

みんなキャラが原作よりちょっとマイルドな感じになってます;
あと、自分で書いてて一人でウケたのが、
「新八、内職しちゃってんのっ?!」


H18.6.17 蜜星ルネ