ーー 雪男先生と問題 ーー



「何?兄さん」

雪男がついに自分の机から顔を上げた。
「あっいや・・・・別に、」
俺は呼び掛けられた事にびっくりしたのか、急に心臓が跳ね上がる。
今日は日曜日、特に予定も無い俺は横の雪男が当然の様に机に向かうのと一緒に
自分も椅子を引いたのだ。


「別にじゃないでしょ、さっきっから僕の顔をチロチロ見て・・・」
「はっ・・はあっ!?なっ何言ってんだよ!」
雪男は立ち上がると俺が座っている真後ろにきて机の上を除きこんで来た。
「っと、なんだ普通の学校の宿題してるんだ。」
「なっなんだとはなんだよ!」
俺は勢いよく首を降ってしかめっ面を向けた。

雪男はこの顔に弱いんだ。

「あっいや、兄さんが机に向かうなんてエクソシストの課題だけかなって・・思ってたから・・」
思った通り雪男は両手を振って、あははと一歩後ろに下がった。
ふん!

「俺だって普通の宿題もやるんだよ!」
「そうみたいだね。うん、凄く良い事だよ!兄さん。」
「うるせぇ!お前完全に俺をバカにしてるだろ、あっ、そうだ!」
「何?」
「この問題の解き方教えてくれよ!雪男先生なら楽勝だろぅ?!」
「えぇ〜?兄さん調子のいい事言って・・・」
俺はペロリと問題集を雪男の前に上げた。
「なあ先生ぃ〜」
「・・・・・・」

雪男は変な間の後、首を傾けて
「それはダメだよ。」
「はあっ!なんでだよっ!」

「僕はエクソシストの先生ではあるけど、宿題の先生じゃないからね。それは自分でやりなよ。」
雪男はさも当然とまともな事をつらつらと言って、また自分の机に戻るとシッシと手の甲を振った。
「なっ!先生は先生だろう!?」
「なあ、雪男〜、マジわかんねーダワ。」
「そう。」
雪男は素振りを変えない。

俺は立ち上がると、
「じゃあここっ!この問題だけで良いからさ〜弟だろ?兄貴を助けると思って、」
雪男の横に行き、机の上に問題集を開いた。
「・・・兄さん。まあ、そうだね。兄さんの恥は僕の恥でもあるし・・・」
「おい!」
「じゃあ兄さん、教えてる間は僕の言う通りにする?」
雪男は少し目を細めニコリと笑って言った。  


「でね、ここでこの公式を使って・・・」
「あっ、ああ・・・」
雪男は丁寧に教えてくれている。
が、
教えてくれるが、どうにも落ち着かない。
「兄さん、ちゃんと聞いてる?」
声が耳元で直接聞こえた。
「ひィ!」

違う!耳元で囁かれてんだっ!!
「あのさ、雪男、やっぱこの座り方はやめねぇか?」
俺はなんと、雪男の左膝に座らされている。
雪男の左腕が腰に回って体がやたらと緊張する。
「僕の言う事聞くんでしょ・・・」
涼しげな笑顔が何考えてるのか分かんない!

「聞くよぉ、聞くけどこれはちょっち、おかしくねぇか?」
くそう、尻がモジモジして落ち着かねぇ、
雪男にバレねぇようにも上手くいってない気がする;

「嫌ならここまで、後はご自分でどうぞ。」
「ちょっ、だからなんでそうなっちまうんだよ!」
すると雪男の眼鏡がキラリと光り、
グイッっと腰に回された腕に引き寄せられた。
てか、顔近っ!
「僕は兄さんの嫌がる事はしたくないんだよ、」
「えっ?あ・・・」
「僕とこんな風に勉強するのは嫌なんでしょ・・・」
「っ・・・・」

だから勉強するって言ってるのに・・・
雪男の言ってる事はよく解かんねぇ。


「別に嫌じゃねぇよ・・・」
「え?」
「きっ、昨日の小テストマジヤバいんだ!この問題次も出すって言ってたし、頼むよ雪男ぉ」
「・・・確かに・・これは中学のおさらいだし、解けないと本当にヤバいよね」
腰に回る腕の力が強くなった、気がする・・・けど、もういいや。
今は雪男の機嫌の方が優先だった!
俺は雪男の肩にもたれ掛かり
「なあぁ〜あ、雪男先生ぃ〜」
猫なで声ですりよった。とにかくこの問題が出来なきゃ明日がねぇし、
こうやって甘えれば雪男は俺の言う通りにするんだ。

だけど最近はなんかやりづらくて、この技は使ってなかったが;



「・・・嫌じゃないんだ・・そう、そうか・・・」
「ん?」
「ありがとう兄さん、凄く・・凄く嬉しいよ!」
雪男は本当に嬉しそうに目を細めて言った。
なんだろう?・・・その顔を見るとなんだか・・・
「おっおう・・・」
「じゃあ続きからだね。」
その時、
机の上にあった雪男の携帯が震えた。
「雪男、携帯・・・」
俺等の視線が携帯を指す。雪男が空いた手で携帯を開いた。
「・・・はい?ええ、で。場所は?」
雪男は一通りの会話を終えると携帯を切った。大体の会話の内容はサッシがつく。

「なんだ?悪魔か?」
「兄さん悪いんだけど・・依頼が入ってね。これはここまでだ。」
「おっおう!依頼じゃあ仕方ねぇよなっ!?あはは・・・」
雪男の膝から降りて、二人立ち上がる。
「・・・うん・・」
俺はすぐにもエクソシストのコートを壁から取り、雪男に差し向けた。
「ほら!」
「・・・・今日はついてくるって言わないんだね。」
雪男がコートを受け取ると袖を通す。その仕草ですらもカッコ良い。
目が合うのが照れくさくて、思わず大きく反らしてしまった。

「なんだよ!・・・行っていいのかよ!?」
「駄目に決まってるだろう。でも、残念だったな・・・兄さんが勉強するなんてめったに無いのに・・・」
「なっ!なんでそうなんだよっ!!」
「!ん?」
雪男の視線に当てられるのはなんか怖い。
なんでこんなに緊張すんだよ!

「帰って来たらもっかいやんだかんな!」
「えっ・・・」
雪男の動きがピタリと止まった。
なんか変だったか?
「おい?」
「えっ!?あっ!ああ・・そうだね。帰ったら一緒に続きをやろうね。」
「おっおお・・・」

行ってきます。と言って雪男が出て行った。
本当に、本当に嬉しそうな顔をして・・・
俺はその出て行った扉をしばらく眺めてしまっていた。

嬉しいのか?俺が勉強するのは?

「っ!・・・」
顔中が熱くなった。
鼓動がさっきっから、いや、最初っから鳴りやまない。
なんだコレ!?

俺バカだから、難しい事は一人じゃわかんねー。

フロフロとベットに向かって布団を大きくかぶった。
「いつ帰ってくんだ?」
今出て行ったばっかりで、つい口から出た言葉に自分でウケた。

難しい事は雪男にまかせよう。
俺は宿題もその答えも放り投げて、目を閉じた。

次に目を開ける時は呆れ顔の雪男がいるんだ・・・

きっとそうだ・・・!

それで俺はまた、猫なで声で・・・

雪男は俺に甘いんだ!


ふふふ・・・











★ここまで読んでくださりありがとうございます!
青エク小説1本目v 毎回小説が作品となると感動する。
雪←燐が好きです。どうしましょvv


H23.7. 蜜星ルネ







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