ーー 悪魔のお嫁入り 3 ーー



目を覚ませばそこは見慣れた天井だった。寮の自分のベッドで寝てるんだと分かった。
夢・・・だといいけど、それにしてもぶっ飛んでる。弟とあんな・・・
思い出すだけで顔から火が出る。俺は堪らずに布団から這い出た。
『おはよーう!りん!きょうは、がっこうおやすみするのか?』
「・・・ん、ああ、おはようクロ。別に休まねぇよ。いつも通りに行くって」
俺は立ち上がるとクロークを開ける。
「っ!!」
鏡を見ると着崩れたピンクの着物姿の自分に一瞬絶句するが、そんな都合良く夢であるわけもねぇなと
制服に着替え始めた。
『あさにな、ゆきおがりんを、はこんできたんだ!そしたらゆきお、すぐでてっちゃったぞ。』
「そっか、雪男何か言ってたか?」
『?おこさなくていいって、だからおれ、じかんきても、おこさなかった。』
「へぇ〜って!おい!今何時なんだよっ!」
クロの台詞に驚いて振り返る。そういや、窓の外がやたら明るい。っつーか完全朝って日差しじゃねー!?
『おやつのじかんだ!』
「えええぇぇえええ!!」


俺は直ぐ様寮を飛び出した。学園内にある寮でも校舎までは距離がある、授業の支度はソコソコに走って向かった。
「ハア、はあ・・・やっぱ授業にはもう間に合わねぇな。」
下駄箱付近にはもう下校の生徒達が表れ出してる。
今更教室に行っても面倒そうだ、学校は諦めて塾だけでも行こう。
俺は校舎に入るのを止めて、手頃なドアを探しに学園内の庭園に向かって歩き出した。
良く使う一目を避けた場所があるんだ。

今日はもう、しょがねぇよな。
「雪男がクロに起こすなって言ったんだからな、クロが起こしてくんなきゃ俺が朝起きれねぇのは雪男だって
知ってるわけだし・・・」
うんうん。俺は腕組みをしながらドカドカと大股歩きでひとり言を続けた。

「何をブツクサ言っとるんや、お前は?」
背後から聞き慣れた声が掛かった。振り向けなやっぱり見慣れた人物が真後ろにいる。
「わっ!勝呂!」
「今日の塾は休講だぞ。お前今日学校サボったから連絡来てへんのやろ?」
「そうなのか?そっか、勝呂はどうしたんだ?」
「俺は、教科書塾に置いたままやから取りに行くんや。授業が無いなら部屋で勉強せなあかん。」
勝呂は言うと俺を越えて、俺が向かっていたドアの方向に歩き出した。俺もそのまま後を追った。
「おおっ!流石、勝呂!じゃあ、俺も着いてくな。寝坊して、このまま寮に帰るだけじゃつまんねぇんだよ。」
「・・・・・・昨日は大丈夫やったんか?・・・」
勝呂は横に並んだ俺に目を向けるとポソリと喋り返した。
「!ぁあ、ああ、とりあえず殺されなくなったよ。これからは何か、絶対に雪男の言うこと聞かねえといけねぇ
らしいけど、それで済んだ?ってヤツかな?」
目的のドアにたどり着くと勝呂が塾校舎に繋がる鍵を取り出す。
「知らんがな!まあ、大した事なさそうで・・・よっ、良かったんじゃねえのか?」
勝呂は視線は手元の鍵だけに、背中で返事を返してくれた。
「うん。今度は気をつけるな。」
「ああ、」
ドアを開ければ祓魔塾廊下に出た。直ぐ目の前の教室が俺達一年生の教室だ。
勝呂が真っ直ぐに教室のドアを開ける。
「おう!お疲れー!」
中から教卓に腰掛けたシュラが手を上げてた。
「先生ぇ!」
「シュラ!何だ?今日は休講じゃねぇのかよ?」
「そうなんだけどよ。お前には連絡行ってねぇって聞いてさ、もしかしてと思って待ってたんだよ。」
「何で?」
シュラは教卓から飛び降りると歩き出し俺の肩に無理矢理腕を回してくる。
「そりゃあ、お前の初夜の感想を聞きにな!」
「!っ!ちょ、何だよ、それ!」
「お前がどうのっつーより、あいつがどうだったのか気になっちまってよお、朝からあいつ、
ダンマリのムッツリだし。」
シュラは俺の耳元に口を近付けるとニヤニヤといやらしく喋り始める。
せっかく忘れかけてた昨夜の出来事を引き釣り出されて、俺は身体を振ってシュラの腕から放れようとした。
「知らねぇよ!放せぇっ!」
「ぅうわっ!!」
無理に捻った身体がバランスを崩す。
「奥村!」
一部始終を見ていた勝呂が俺の背中を支えようと手を伸ばした。
「っと、あぶねぇーな。燐、気おつけろよ!」
落ちるかと思ったところでシュラに腕を掴まれ、俺は勝呂のキャッチに頼る事無くシュラに助けられてた。
そのまま引っ張られて体勢を直す。
「あ、お前が変な事言うからだろう?!」
「そうかぁ?お前が勝手にはしゃいだだけだろうがっと、おい、勝呂。」
「っあ、はい。」
「こいつは新婚ほやほやの人妻だ。野郎が気安く触んじゃねーよ。以後気おつけるようにっ!」
「は?」
目の前にビシィイイっと人差し指を立てられて勝呂は訳もわからず固まった。
「わぁぁああ!!シュラっ!お前っ、何言ってんだぁああ!!」
「何じゃねーよ。大事な事だ!そうだなぁ?お前以外にも男が燐に近付かないようにお前は燐の護衛をしろよ。
あたしは昼間の学校までは面倒見れねぇしな。」
「・・・あの?何の話っスか?」


「何やと!結婚っ!!」
勝呂はシュラの説明を聞き終わると、教卓に座ったシュラを見下ろして驚きの声を上げた。
俺はもう、口も出せずに二人の間にある自分の机の上に腰掛けて勝呂と同じようにシュラの説明を聞いていた。
自分の出来事ながら、こうして説明されるとあまりにぶっ飛んでる。処刑を免れる代わりの処罰が実の弟と
結婚なんて誰が聞いたってそりゃ驚くわ。
「そ、燐はもうあのムッツリメガネのものって事。身も心も昨夜雪男に捧げちまったのよ。
あ、その感想聞くんだった!で、どうだった?」
「奥村・・・ほんまか?」
二人の視線が一気に集中してなんだか顔が勝手に下を向く。
俺は二人のニヤニヤとガクガクした顔を交互に見てから口を開けた。
「し、してねぇよっ!?」
「「は?」」

「だからっ!してねぇって!昨日は雪男、その、H?・・・したフリするって、カメラ?・・・の前でただ・・・
ゴニョ・・ゴニョ・・・」
俺は食い入る二人を前にだんだん声が小さくなっていく。つーかこんなん事細かに言えるかってっ!!
「・・・なっなんやねん!ビックリさすなや!」
あからさまに胸を撫で下ろす勝呂にこっちまで緊張がほぐれてきた。
「俺だって、昨日は超!ビックリしたんだ!!」
俺は更に説明をしたかったが、

「ぷっ!くくくっ!・・・あ、わりぃ!あはははっ!何だ、あはははっ!」
シュラの腹を抱えての大笑いに俺も勝呂も呆気に取られ、シュラの笑いが収まるのを黙って待った。
「いやー悪りぃ、久しぶりにビックリしたわー!!なるほどねーそれで朝からガチガチなんだな。」
「雪男ガチガチなのか?」
「ああ、面白いくらいにな、こりゃあ昨夜はそーとー良かったか大失敗のどっちかだなーって思ってたんだけど・・・」
シュラはポケットから携帯を取り出すと慣れた手つきで番号を押して誰かに電話を掛け始める。
誰かにって、相手は想像するところ・・・
「あ、雪男?ちょっ、切ろうとすんなよっ!お前の大事な嫁さん預かってやってんだよ!
・・・・・・そ、無理に登校したみたいで今教室にいるよ。あたしが見ててやるから直ぐ迎えに来い。」
シュラが携帯を降ろす。
「おいっ!何だよ、雪男ここに来んのか?」
「塾の休講は理事長からのお達しだが、きっと言い出したのは雪男だろう。お前を休ませたかったんだろうよ。」
「それは、どういう事っスか?」
勝呂の質問にニヤリと笑ったシュラは話し始めた。
「上の監視はまだ当分続く、燐と雪男がちゃんとした夫婦になれるのか、悪魔と人間では無理か、
同性では無理か、兄弟では無理か、上は調べながら終始監視しているんだ。」
「俺と雪男が、ちゃんとした夫婦ぅ?」
「そ、正しく夫婦になったと認めた時点でヴァチカンはお前を解放する。
それまで完璧な偽夫婦を雪男はするつもりなんだろうよ。」
「にせ?夫婦?って・・・?」
「んー?イチャイチャするとか?ラブラブするってやつ?一日中。」
シュラは腕組みをして考え始めると、首を捻って答えた。
「ぶぅぅふうー!何やねんそれっ!?」
額に青筋立てた勝呂が顔を引き攣らせている。

「あ・・・」

昨夜、雪男はフリだけだって言って・・・
俺にキスしてきた。
アレも偽夫婦のフリって事だったんかな?
だったら、キスだってするフリだけでいいのにっ・・・
あんな・・・
俺、ファーストキスだったのに・・・・


「お、来たな?焦ってる焦ってる♪クク! 来い燐、」
「あ?」
シュラは教卓から降りると俺に来るよう手を差し出す。俺は呼ばれた通りに机から降りてシュラの元に近寄った。
シュラは俺の後ろに回ると両肩に手を置いてきて耳元で話し始める。
「いいか?今からお前の世界で一番大好きな旦那様がやって来るんだ。片時も離れたくなかった、寂しかった、
大好きぃー!って雪男がドアを開けたら飛び掛れっ!」
「「はああっ!!」」
後ろで黙って聞いてた勝呂までも声を上げて仰天した。
「それくらいやらんと上の目は誤魔化せねぇって、ちょっと大袈裟なくらいが丁度良いんだよ。」
シュラの言った通りに段々小走りの足音が聞こえて来る。確かに焦ってるみたいだ。

「あたしはこのやり方は気に食わない。だけど・・・雪男は元々お前の弟なんだし、えらく生活が変わるわけでもないしな。
どうせお前は人間の女と結婚なんて認められるわけねぇし、お前にとっては一番いいのかもしれない。」
「シュラ・・・?」
「来るぞ!5、4、3、2・・・1っ!」
カウントダウンが終わると同時に背中を強く押された。足が縺れて前に進む。視線を上に上げればドアが開いた。

「兄さんっ!!」
いつも通りの教師姿の雪男が本当に慌てた顔で教室に飛び込んで来た。
「ゆっ、雪男・・・!」
「!」
縺れた足は上体までも引っ張る。
倒れかけそうに向かってくる俺に気付いた雪男は一瞬で腰を下ろして俺を受け止めた。
気付くと雪男の胸に抱きとめられてて驚いた身体がビクつく。
「わ、あっ・・・悪りぃ・・・」
「・・・・。」
見上げれば雪男は苛立った顔を隠しもせずにシュラに視線を返す。

「あはははっ!!何だよぉ、もっと熱い抱擁しねぇと上の目は誤魔化せねぇぞっ!」
「シュラさん・・・貴女はどこまで下品な人なんだ?」
笑い転げるシュラを前に雪男は俺に、勝呂にと、教室の中を見回した。
「怒るなって、結界張って待っててやったんじゃねーか。大事な嫁さんなら必要な事はちゃんと教えとけ。」
「・・・・。」
「今日はもうお前も上っていいぞ。幸い授業は休講になったしな♪」
「それはどうも有難うございます。」
雪男は一礼をすると俺の腕を掴んで引っ張った。
「行くよ。」
「あ、ああ・・・」

「燐!まあ、頑張れっ!そういう事なら協力するぜ!」
「?ああ・・・」
にやにやと手を振るシュラにつられて、俺も小さく手を振った。シュラの後ろで勝呂も呆けながら片手を上げている。
それを横目に口をへの字に曲げた雪男が溜め息を吐く。

「はあ、余計な事を・・・」

















つづく
「悪魔のお嫁入り1」
「悪魔のお嫁入り2」
「悪魔のお嫁入り3」
「悪魔のお嫁入り4」
「悪魔のお嫁入り5」
「悪魔のお嫁入り6」

★ここまで読んでくださりありがとうございます。

このお話では勇気だして登場人物増やしてみました。
燐のソレな相手は誠実で優しい勝呂さんが適任だと思っています///

H24.9. 蜜星ルネ
 







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