ーー 悪魔のお嫁入り ーー



「バカ燐っ!何やってんだっ!勝呂もお前らアホかぁー!!」
シュラの声が敷地内に大きく響いた。



ここは都会から少し離れた穏やかな住宅街。その中でも数年前に廃校になった学校に俺は来ていた。
廃校に住み着いて校舎取り壊しを妨害する悪魔に付近の住民は悪魔払いを正十字騎士団に依頼した。
俺達候補生も実戦見学を前提に同行したのだ。
もう直ぐ日が沈む。昼間には悪魔は現れない。
だが完全な夜になると力が増してしまうから日が沈むギリギリの所で攻撃を仕掛けるとシュラから説明を受けた。
「よーし、諸君!時は来た!武器を持て!あたしとここにいる中一級君達2人で突撃する!
 ヘマする気はないがそれぞれ臨機応変にカバー頼むわ!」
他20人程のエクソシストが校舎を取り囲む。俺達候補生は更にその後ろで見学だ。

「ちぇ〜本当に見学だけなのかよ!」
手にしていた降魔剣を肩に背負い直した。
「奥村、お前あんま動くなよ。」
すると勝呂がすぐ横にやって来て他の皆には聞こえないようにそっと言ってくる。
「何だよ。何もしてねぇだろ。」
「先生ぇからお前を見張っとけって。お前まだ何かあんのか?」
つい一ヶ月前に勝呂や塾の皆に俺が悪魔である事がバレてしまった。
皆最初は俺を化け物扱いだったけど、今では悪魔である事を隠していた時よりずっと仲間だって思える。
今の勝呂の表情も俺を疑ってるっていうより、俺を心配してるって顔だ。

「まだ炎を使うなって言われてんだよ。俺に炎を使うなって、どうやって戦えっつうんだよ!」
「なら、詠唱で戦えって事や。」
「バカか!勝呂っ!俺に暗記なんて出来ると思ってんのか!?」
「真面目だボケ!動けば怒られるならそれしかねぇだろ。」
その時。

シュラが突撃した校舎2階一室の窓ガラスが三枚割れた。シュラ達が窓ガラスを割って飛び出して来たみたいだ。
「どうだ!やったかっ!!」
空中から綺麗に着地するとシュラは直ぐにも構えて他の二人に大声を上げた。
「深手は負わせましたが、致命傷になったかどうか!?」
「仲間がいました!他にもいるかもしれませんっ!!」
「よし、仕方ない班分けして全員で突入するぞ!」
シュラは全員を集合させて指示を始める。どんな説明なのか聞こうと俺達塾生もその輪に走り出した。

『・・・けて・・・たすけて・・・!』
えっ?
今、何か声が・・・・
自然と足が止まる。目の前の人達じゃない不思議な声が俺の耳に聞こえてきた。
この感じ・・・クロの声と同じだ!

俺は進む方向を変えて真っ直ぐ校舎に向かって走り出した。
「おいっ!奥村っ!」
俺の突飛な行動に驚いた勝呂も後から追いかけてくる。

「ちょっ!おいおい燐!待てぇ!」
俺達の行動に気がついたシュラの怒鳴り声が後ろから聞こえてくる。俺は振り返りもせず真っ直ぐ走り続けた。

だって、確かに聞こえたんだ!「助けてって。」誰かを呼んでる風だった。
俺は下駄箱正面に続く階段を駆け上がりその声が聞こえる方向を探って走った。
「なんやねん!お前は!先生の命令無視してええんかっ?」
後ろの勝呂が追いついて来た。その姿に心強さを感じて、俺はさもあっけらかんと答えたんだ。
「今日はうるさい雪男がいないから良いんだよ。何とかなるって!それより悪魔が助けてって言ってるんだ!」
「ほんまかいなっ!」

俺は前を向くとその声が聞こえる教室の戸を開けた。
「は!」
中に入ると、何となくに思った通り攻撃される事は無かった。
そこには人型の女の悪魔が同じ様に人型の男の悪魔を抱き締めて涙を流して声を掛けていた。
「ああ、あなた目を覚まして。お願いっ!一人にしないで・・・」

その光景に俺はさっきの戦闘でこの男がやられたんだと悟った。
まるで映画のワンシーンのように唐突に悲劇だった。驚きで身体が動かない。心臓が凍りついた。
女は俺の進入に気がつくと、攻撃するのでは無く、更に涙をこぼして歓喜の表情を見せた。
「あ、貴方、高貴なお方ですね。助けに来てくださったのですね!」
「え、あ・・・」
女の喜びの顔にたじろぎ何も言葉が出なかった。
「私を、私を殺してください!この人が死んでは私はもう生きてはいけないっ!」
「なっ・・・!」
「でも、一人では死ぬ事も出来ない。エクソシストに殺される訳にはいかない!
 奴等に殺されたらこのアッシャーで浄化されてしまう!?」
「何だよ、それ・・・」
「私とこの人を、その剣で一刺ししてください!まだこの人の息が続くうちに!
 同じ悪魔に殺してもらえれば私達はまたゲヘナで生き返る事が出来るのです!」
「えっ!そうなのか・・・?」
その時、後ろにいた勝呂が教室に入って来た。
「おい、奥村。先生ら突入してくるで、俺等は戻った方がええ!」
勝呂に強く肩を掴まれ無理矢理に状況を聞かされた。
「ヒィイ!人間!エクソシストっ!!!」
「違う!こいつは良い奴なんだ!何もしねぇよっ!!」
身構えて両手をかざす女に慌てて声を掛ける。だけど、これからどうすれば・・・
シュラに訳を話して何とかなるのか?せめて突入は止めさせねぇと!
俺は女に少し待ってくれと言おうと振り返った。
「ああ!嫌ぁ!あなたぁぁ!」
目の前の男の体が光輝いてる。体から浮き出る無数の光が上へと上がっていった。
それはとても美しく、まるで天国へ行くかのような・・・
「ああっ!お願い!まだ待って!逝っては駄目、おっお方様ぁぁあ!!早く私達をっ!早くぅ!!」
悲鳴の訴えにもう誰かに助けを求めることは出来ない。
今は俺がこの悪魔を助けねぇと・・・
「解った。」
背中の降魔剣を下ろした。柄と鞘それぞれに両手を添える。
「おい、奥村、お前炎を使ったらアカンとちゃうんか?先生ぇに言われてたんやろ!」
「分かってるよ!だけど、俺がやらねぇと。この人達助けられねぇ・・・」
「この人達って・・・お前っ、こいつら悪魔やろうがっ!奥村ぁぁあ!!」
降魔剣を抜けば身体中をサタンの炎が包む。
炎を纏った俺を目の当たりにした女は最上の歓喜の表情を見せた。
「ああっ、その炎は・・・!おっ、お方様のお手にかかれて幸せにございます!」
「・・・・っ!!」



ゲヘナへと消えていく二人を見送った後、勝呂と無言で校舎階段を降りた。
グランドに出れば急に気配の消えた悪魔にエクソシスト達が混乱し話し合ったり悪魔を探す呪術を行っていて、
ちょっとした騒ぎになっていた。
シュラが校舎から出て来た俺達に気付いてやってくる。顔を上げる事が出来ずにじっと待つ。
「燐、お前何をした!悪魔はどうした?!」
「・・・ゲヘナへ帰った・・・」
「先生ぇ、こいつは仕方なく、」
勝呂が庇うように一歩前に出てくれた。
「お前には聞いてねぇ!燐、炎を使ったな。次に炎を使えば間違い無く処刑だと言っただろうっ!!」
「だって、しょうがなかったんだ!俺がやってやんねぇと、あの人達助からなかった!」
「あの人達って、お前・・・クソッ!」
シュラは携帯電話を取り出すと操作を始めた。
「どっか電話すん・・・っ!・・雪男に掛けんのか?」
「ああ、燐。こっから先はあたしにどうこう出来るもんじゃない。覚悟しとけよ。」

シュラが電話を掛ければ直ぐに雪男が出たみたいだった。
「あ、雪男か?悪りぃ、燐、やっちまった。あ?メフィストが?そうか、もうあっちにもバレてるのか。あ、ああ。」
俺の前に電話が差し出される。受け取るとおそるおそる声を出した。
「あ、雪男か?」
「兄さん。いつかはやると思ってたけど、こんなに早くになんてね。」
開口一番に怒鳴られるかと思ったが、雪男の声は落ち着いていた。その柔らかい声のトーンに安心して言葉を続けた。
「あ、悪い・・・俺、やっぱ殺される。かな?」
「処刑はさせない。だけど、それ相応の処罰は受けてもらう。嫌でも逃げるんじゃないよ。」
「そっそうか、良かったぁ!分かった。・・あ、ありがとな。」
シュラに電話を返すとシュラはそのまま話し込み、何時に戻れるか、準備はとか話し込み始めた。
俺のせいで何かが始まるみたいだった。
回りを見渡せば数十人のエクソシスト達が変わらず話し合い、調査をし続けている。
もう悪魔はいないのに。
今更ながら大きな事を勝手にしてしまったんだと思った。見ていられずに顔が勝手にうつ向く。

「奥村、大丈夫か?」
すると横から勝呂にそっと肩を抱かれた。
「あ、雪男が処刑にならねぇようにしてくれるって、罰は受けなきゃならねぇみたいだけど大丈夫だ!」
優しい一言に急に力が沸いてくる。
やっぱり皆に悪魔である事を知られたのは良かった。次に炎を使えば処刑という事になったけど、
こんな時こんな一言が心強い。
「そうか、若先生ぇが何とかするっつーたら、もう何とか出来てるっつー事だろ。ま、何かあったら、
おっ、俺達にも言え。」
「勝呂・・・お前・・・」
「まっ、まあ〜先生ぇがいれば安心やろけど。兄弟やしな。」
勝呂は顔を上に向けて、照れ隠しのようにモゴモゴ喋った。
「分かった!ありがとうな!勝呂!!格好いいな!」
「なっ!だから、それ言うの止めい!言うたやろっ!」
「あはは!勝呂照れてるのな!」
どんなに言葉でからかっても肩に乗せた手は放しはしない。暖かくて大きい手だ。
俺はそのまま寄っ掛かってしまいたくなってた。
「おい、燐!メフィストのお迎えが来たぞ。あたし達はあいつの力で一足先に支部へ帰るからな。」
シュラが上空を眺めながら、声を掛けてくる。
同じように上を眺めればメフィストが地上へと降りて来ている所だった。
「分かった。行くよ。」
勝呂の腕をすり抜けてシュラの後ろに続いて歩き出した。
「奥村・・・!」
「うん。じゃあ、また塾でな!」
呼びかけられてふり返れば心配そうな表情の勝呂。俺は平気だと笑顔で手を振って見せた。
きっと大丈夫だから・・・。




支部中枢に着けば、直ぐにもシュラに腕を引っ張られ引きずられながら歩いた。
シュラは止まる事なく横を歩くメフィストと会話を始める。
「おい、メフィスト!あと何時間あるんだ?!」
「2時間程。」
「に、短すぎないか?!こっちの準備は相等掛かるぞ、って、知らんけど。」
「大丈夫です。それなりのプロがスタンバってくれています。奥村君が大人しくしててくだされば問題ありません。」
「それはあたしが何とかさせるよ。」
「では、予定通りに。奥村君には貴方が、奥村先生には私がつくという事で良いですね。」
「ああ。」
「なっ!雪男って、雪男がどうなるんだ。」
「貴方の唯一の血縁者は奥村先生だけです。貴方の咎めは彼の咎めになるのですよ。」
「何だよそれっ!雪男は関係ないだろっ!」
「おら、燐!喋ってる暇は無いんだ。行くぞ!」
歩くのを止めたメフィストを後ろに、シュラに引っ張られてどんどん奥へと連れられて行く。
エレベーターに押し込められた。エレベーターは更に地下へと下がり始める。

雪男も同じように何処かに連れられてしまったのか?
俺のせいで雪男も罰を受けるだなんて。
雪男の言っていた『処刑はさせない。』は自分も罰を受けるから処刑にまでならないっって事だったんだ。
くそっ、兄貴なのに、弟に罪を擦り付ける事になっちまった。
随分と地下に潜るとエレベーターが止まった。
「ほれ、手前の部屋に入れ!」
「わっ!」
シュラに背中を押されて前へ出る。言われた通りに手前の部屋のドアを開いた。
「えっ!」
中には5人の優しそうなおばさん達が俺を待ち構えていた。
「これは何・・だよ・・・?」
後から部屋に入ったシュラに尋ねようと振り返った。
「悪いな。燐。説明してる程時間が無いんだ。」
シュラは両手を胸元に見覚えのあるポーズを取る。
「オン!」
途端に尻尾のリングから激痛が走る。
「ひがぁぁああ!シュ、ラ、な・・・」
そのまま意識が飛んだ。





何・・・
なんだ?何か聞こえる・・・
何の音?人の声?
「燐、起きろっ!」
「はっ!」
シュラが目の前で指を鳴らしたせいで目が覚めた。焦点を合わせれば間違い無くシュラが自分の顔を除き混んでいる。
「気分はどうだ?もう痛みは無いだろう?」
「あ、ああ。」
シュラを越えた奥を見渡せば、大勢の顔も知らないエクソシスト達が其々の武具を手に押し合いながら俺を見ている。
部屋はそう広くない。窓ひとつ無い為、まだ支部内地下にいるんだと思った。
「ビビるな。お前が抵抗しなければ誰も何もしない。」
シュラは落ち着けとばかりに俺の肩に手を乗せた。

手を乗せられた肩が重い。そういえば身体中が締め付けるように窮屈だ。頭も重いし。
何かの呪術か・・・?

「よし、燐は良いぞ。雪男。」
「えっ!」
俺はその名に驚いてシュラの声の方向を、真横に首を振った。
そこには雪男が黒い着物を着て座っていた。
「あ、雪男!お前大丈夫か?!」
「・・・馬子にも衣装か。」
目が合えばクスリと変な顔で笑われた。
「は?」
「そう言うなって。燐がムキムキマッチョだったら目も当てられんかったぞ。可愛い方だ。」
「何だよ!・・・」
見上げれば、シュラもニヤニヤといやみに笑い俺を見ている。
バカにされてる?今起きたばっかで何で? 
「じゃあ、あたしも先に行ってるから。大太鼓の音が合図だ、そしたら入って来い。」
「解りました。」
じゃ、とシュラが部屋を出て行く。エクソシスト達がシュラに道を空ける姿が異様だった。
「えっ?おい、シュラ?!」
シュラの背中を視線で追いかけながら、嫌な不安感だけが残る。
「・・・兄さん自分の格好を良く見てみなよ。」
「え?」
俺は言われた通りに自分の胸元に目をやった。

白色の着物・・・身体が窮屈なのはこのせい?
頭、頭が重い・・・

「えっ!ええっ!何だこれっ!!」
俺は頭に被った物に手を当てるとその形に驚いた。
「やっと解った?確かに可愛いよ。はは!」
「・・・・な、んで・・・」
「・・・・・・・・」
雪男は一瞬黙ると俺を見眺めてから口を開いた。
「それ相応の処罰を受ける事になると言っただろう?もう逃げられないよ。」
「罰って・・・」
「もっとも、僕と兄さんの結婚は最初から決められていた。二十歳だったのが今回の兄さんの行動で早まったんだ。」
「早まったって、決められてたって・・・何で?・・」
雪男の言ってる事が信じられない。雪男もメフィストも、まだ俺に内緒にしていた事があるって事か?
「炎を使うなは、只の審査だ。兄さんが従順に命令のみを実行出来るかのね。だが、人ならばその場に応じた行動、
 感情がある。兄さんは逆に人として認められたという意味でもあるんだよ。」
「何だよ・・・わかんねぇ言い方すんなよ。」
「父さんが死んだ時、兄さんの存在をヴァチカンに知られた場合の提示案が出来た。」
「えっ!」
「僕が兄さんを監視、管理し、完全に付き従える。結婚はその表向きの表現だよ。」
雪男はただ淡々と説明をしていくその表情からは怒りも悲しみも不安とも無縁の機械的な顔だ。
「今後兄さんが命令に背く・・というか、正十字騎士団にとって脅威とみなされた場合は僕も即座に処刑対象に、
 又は僕が突然の事故死、病死した場合も兄さんは処刑される事になる。」
「っ・・・」
「夫婦みたいだろ?だから結婚なんだ。」


その時、何処からともなく大きな音が一つした。シュラが言っていた大太鼓の音だ。
「時間だな。式の招待客が全員揃ったんだろう。」
「招待客ぅ!?」
「世界各国から幹部クラスの上級エクソシスト達が来ている。お祭り騒ぎの見世物だよ。
 和装にしたのも客の目を楽しませる為だ。」
雪男は立ち上がると俺の目の前に手を出した。
そしてまた一つ大太鼓の音が鳴る。間隔を空けて叩いているようだ。
「行くよ。」
「あっ、ああ。」
部屋を引き締め合っていたエクソシスト達が雪男に道を空けようと綺麗に整列した。
俺は雪男の手を借りて立ち上がるが、完全に着せられた着物に身体の動作が上手くいかない。
雪男は俺の体勢が整うのを待つと更に口を開く。
「最初はふりでいい。僕に付き従い、僕の言う事は絶対だと思い込め。」
「ふりって、何が?・・・」
大太鼓の音の間隔がゆっくりと短くなっている。こだました響きに急かされるようで頭が上手く回らない。
雪男に手を引かれ無理矢理に歩き出された。

「っ!・・・・・」
この部屋を出たら何か飛んでもない事になりそうな気がする・・・
冗談じゃ済まされないような・・・
「ゆっ、雪男っ!俺、罰なら何だって受けるし、命令も守るからさ!」
「処刑はさせない。罰も、制裁も、拷問も、もうさせない。兄さんは今夜から僕のものだ!」
雪男が部屋のドアを開けた。
一歩出ればそこは巨大なホールだった。
何百人?何千人?のエクソシスト達がまるでスポーツ観戦かのように俺達の登場を楽しんでる。
前方に目をやればホール舞台中央で神社の神主さんな格好のおっさんを間に挟んで、シュラとメフィストが
向かい合わせで立っていた。
その前には巫女さんが二人緩やかに舞いを舞っている。
「なっなあ、雪男・・・」
「・・・・・・。」
俺の呼び掛けには応えない。雪男は黙ってただ前だけをじっと見つめている。
繋がれた手を離された。
「っあ・・・!」
連続して叩かれた大太鼓が止まった。
ホール内の会話のざわめきも止んだ。
始まりの合図だった。


大衆の視線の中で一通りの儀式を済ませた。
誓い酒を飲み、指輪をはめられた。俺の止まらない震えで雪男は指輪を通すのに手間取ってた。
「・・・大丈夫だ。」
雪男は小さく俺に囁く。

って、何が?!
これから俺、どうなっちまうんだろう・・・
結婚って、雪男と結婚したらもう他の人とは出来ないって事だろっ?!
俺、男なのに女の格好して・・・
俺にはもうお嫁さんは出来ないって事で・・・
いつかは俺だって彼女とか、付き合うとかするんだと思ってた。
もう無い。もう無いんだ!
これが・・・

俺の罰。




「雪男は・・・嫌じゃないのか?」
俺は指輪をはめ終えた雪男に問いかけた。雪男は俺の顔を見ると目を細め。
「・・・・僕にはある程度の自由が認められてる。」
「?」
「浮気・・・じゃないな。正妻を貰う事とかね。」
「っ・・・」
雪男の言葉に肩が落ちる。もう何も聞く事が無くなってしまった。
「エクソシストになるんだろう?それとも今ここで死ぬか?」
無意識に首を振っていた。

それは出来ない。ここで死んだら俺を守って死んだじじいの意味が無くなってしまう。
まだ生きれるなら、まだ生きていけるなら、どんな事になったって俺は生きたい!
生きなきゃならねぇんだ!!

「なら受け入れるんだ。良いね。」
「・・・・・・」
俺はコクリと首を縦に振った。
メフィストとシュラ、そして大勢の招待客に見守られて、俺と雪男の結婚式が終わった。





式が終われば最初に入った部屋に連れてかれ、すぐにも衣装を剥ぎ取られて風呂に押し込められた。
俺自身早くこの化粧を落としたかったから、その強引さには喜んで風呂に飛び込んだ。
これで寮に帰れる!
取り敢えず帰って寝て、これからの事は明日また考えよう!
って思ってたのに、風呂から出るとまた新しい着物を一枚着せられた。
薄手のピンク色の着物だ。もくもくと俺の腕に袖を通していくおばさん達は着せているのが男だって事もガン無視だ。
作業が終わればおばさん達はすぐにも部屋を出て行く。ドアが閉まるのを確認した後、回転して着物の袖を
引っ張って見せた。

「おい!シュラ!何だよこれはっ!もう終わったんだから帰っていいだろ!?」
「長襦袢だ。日本の伝統的な寝間着だよ。」
シュラは椅子の背もたれを前に股がって座ると顎を付いてニヤニヤと返す。
まるで着せ替え人形の俺をバカにしてるみたいだ。
てか、この部屋にいたおばさん達全員にあっちもこっちもそっちも見られちまったー!!

「そうじゃなくって!俺帰りたいんだけど。」
俺は動揺を晒すまいと気を取り直して言った。
「・・・上は一通りを今夜中に済まさせる気だな。あたしにはお手上げだよ。まあ頑張れ!」
シュラは片手をヒラヒラと仰いでやる気のない台詞を返す。
「はあ?」
「まあ、あれだよ。あれっ!お前ら今夜は新婚初夜なんだよ。」
「・・・・?」

え、

「ええっ!あ、あれっ!!」
俺の頭が吹っ飛んだ。途端にテレビで見かけた数少ないシーンを思い浮かべる。
でも、ああいうシーンが出るとじじい速攻でチャンネル変えるからあんま見れなかったっけ・・・って!
あれをすんのか!?
俺と雪男がっ!!うっそだー!!
「そう、あれあれ。にゃはは〜!まだお子様な燐君には刺激の強い展開だな〜。」
「ちょっ、ここを見るんじゃねぇ!」
シュラの視線の先を感じて身体をくねった。顔中が真っ赤になるのが自分でも解る。
「つーかさ。お前等って獅郎にどーいう育てられ方したんだよ。雪男、あいつ絶対むっつりスケベだぞ気よつけろよ。」
「はあっ?!」
シュラの台詞にまた頭が吹っ飛んだ。
だって、雪男もじじいと同じにテレビでそんなシーンが出れば速攻で・・・恥ずかしがってて・・・
?、え・・・?


「むしろ貴女のその品性の無さに気よつけるべきだな。」
すると雪男がドア付近に壁に背もたれて立っていた。雪男の方はいつも通りの祓魔師コートで当然のようにいる。
なんだあれっ!不公平じゃね?
「ちゃー雪男、聞いてた?」
ヘラヘラとお茶らけたシュラが雪男に振り向いた。
「・・・・・・。」
いつからいたんだよ!?まさか雪男にも全部見られたなんて事ねぇよな?
俺は恥ずかしさで何も言葉が浮かんでこない。

「待ちきれんって所かよぉ?」
「・・・新婚早々花嫁に逃げられてはかなわないですから。」
「・・って、逃げたりしねぇよ。」
雪男の言い方に思わずポツリと返す。
「なあ、雪男?今から俺等・・・本当に・・・?」
「まさか!兄さん、結婚したと言っても僕等元々兄弟だろ?形として夜を過ごすだけだ。
 今夜は寝床が変わるだけだよ。」
「そ、そうだよなぁ〜!!アハハ・・・びっくりしちまった。」

シュラが椅子から立ち上がると軽くのびをして雪男に言った。
「・・・。ほいじゃまっ、あたしはずらかるとするかね。」
「どうも。」
「え、シュラ?」
シュラは雪男を通り越えて部屋を出て行った。急に身体を包んでいた安心感を剥ぎ取られて俺は全神経が固まる。
ドアの横に立つ雪男を見上げる事が出来ない。
胸を打つ心臓の音に緊張しているんだと分かった。昨日まで、いや、さっきまでは確実に弟だった雪男に・・・!

「じゃあ、」
雪男が声を上げると反射的に身体がビクついてしまう。
「っ!」
雪男は俺の前まで来ると。
「寝ようか?」
「・・・!」


命令じゃないのか?
俺はもう拒否出来ないのに・・・

俺は少しだけ雪男の目を見ると、怒ってるんだか何なのか解らんいつもの顔がある。
それはやっぱり、いつもの雪男の顔だった。

























つづく
「悪魔のお嫁入り1」
「悪魔のお嫁入り2」
「悪魔のお嫁入り3」
「悪魔のお嫁入り4」
「悪魔のお嫁入り5」
「悪魔のお嫁入り6」

★ここまで読んでくださりありがとうございます。

前回うやむやにした結婚ネタをやってみたいと思いました。
これからよろしくお願いします。
必要だった為、悪魔のほにゃほにゃ勝手に作りました。気にせず読んでください。

H24.7. 蜜星ルネ  







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